通常、感染症予防ワクチンには病原菌やウイルスを弱毒化したものが使われますが、HIV-1の場合遺伝子変異が容易に起こり、強毒化するおそれがあるために安全性の観点から使用できないので、現在開発中のワクチンのほとんどは、HIV遺伝子をワクチンベクターに組み込んだものです。このタイプのワクチンの特徴は、接種後、細胞の中で組み換えHIV蛋白質を産生でき、キラーT細胞を効果的に誘導できる点にあります。

 現在我々が開発中のエイズ感染予防ワクチンは、2種類のワクチンベクターの組み合わせから成っています。一つは結核のワクチンとして日本人には馴染みの深いBCG、もう一つは天然痘のワクチンとして、その撲滅に大きく貢献してきたワクシニアウイルスの弱毒株で、DIsという株です。これら2種のベクターに遺伝子組み換えの技術を使ってHIV-1のgag遺伝子を組み込み、モデル動物に接種すると、その体内でHIV-1のGag蛋白質が作られ、キラーT細胞などの免疫反応を誘導できます。BCGで初回免疫し、ワクシニアDIs株で追加免疫すると、

HIV-1に対するキラーT細胞が飛躍的に増強されます。サルを使った動物実験で、SHIV感染を防ぐ効果が認められ、エイズの発症を抑えることができることが判りました。

 BCGは結核のワクチンとして長年用いられ、極めて安全であること、製造コストが低く安価に供給できること、菌自身に免疫力を増強する効果があること、人の体内で数年間生き続けられるので効果が持続するなどのメリットがあります。他の競合する候補ワクチンのほとんどが、初回免疫にDNAワクチンを使っていますが、安全性の問題がクリアーされていません。BCGを初回免疫に用いることは、我々のワクチンの大きな特長の一つです。また追加免疫に用いるワクシニアDIs株も、人に接種された実績があり、安全性に何ら問題がありません。人での有効性については、今後の臨床試験の結果を待たねばなりませんが、現在世界で開発中の候補ワクチンの中で、最も有望なものの一つであることは間違いありません。

関連情報:
「エイズワクチン開発の進むべき方向」松尾和浩,
(IASR 病原微生物検出情報, Vol.26 No.5(No.303) May 2005)